排卵をコントロールする司令塔は? 生殖の中枢メカニズムを解明

排卵をコントロールする司令塔は? 生殖の中枢メカニズムを解明

排卵の司令塔「キスぺプチンニューロン」

生殖は生物にとって自分のDNAを次世代に伝える重要な現象です。ただし、生殖のシステムは体の状態を見極めて働かせる必要があります。例えば、個体が低栄養状態やストレス下にある場合は生殖を抑制してエネルギーを個体の維持に回す、というようなことです。こうしたコントロールを行っているのが脳の神経です。
哺乳類では、脳の奥の視床下部にあるキスぺプチンニューロンという神経が全身の状態を把握しながら、排卵をコントロールしています。卵子を包んでいる卵胞から放出されたエストロジェン(女性ホルモン)は血流に乗って脳のキスぺプチンニューロンに届けられ、卵胞の発育状態を伝えます。キスぺプチンニューロンは卵胞の発育が不十分であれば卵胞の成長を促すシグナルを発し、卵胞が十分成長していれば排卵を引き起こすシグナルを発します。

ATPシグナルも関与

このキスぺプチンニューロンを中枢とする排卵のメカニズムはまだよくわかっていません。キスぺプチンニューロンを活性化するためには、エストロジェン以外にも、未知のシグナルが必要です。そこでキスぺプチンニューロンで発現している遺伝子が網羅的に調査されました。すると、エネルギーのやりとりで知られるATPの受容体が高く発現していました。ATPは、脳では神経の情報を伝える物質としても働いており、このATPがシグナルとなって排卵を引き起こす仕組みに関わっていることが世界で初めてわかりました。
そして、ATPのほかにもあると考えられる未知のシグナルを明らかにし、キスぺプチンニューロンを制御する仕組みの解明をめざして研究が進められています。

畜産やヒトの医療に貢献

畜産の領域では、動物の効率的な生産が求められます。それに対し、例えば温暖化による暑熱ストレスの生殖機能への影響や人工授精による受胎率低下など、課題は少なくありません。生殖の中枢メカニズムの解明は、こうした課題の解決につながるだけでなく、ヒトの不妊治療といった生殖医療への応用も期待されます。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 農学部 資源生物科学科 動物生殖科学研究室 准教授 井上 直子 先生

名古屋大学 農学部 資源生物科学科 動物生殖科学研究室 准教授 井上 直子 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

基礎獣医学、基礎畜産学、生殖生理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私が生殖科学の分野に進んだきっかけは、大学3年生のときに実習でマウスの受精卵を観察したことです。たった一つの細胞だった受精卵が分裂を繰り返し、複雑な臓器を持つ個体へと成長していく様子に感動しました。さらに、成長した個体が次の世代へ命をつなぐために再び卵子を作り出すこと、そしてその仕組みを脳がコントロールしていることにも大きな不思議を感じました。こうした生き物の体の不思議を面白いと思うなら、生殖科学はおすすめです。まだ謎だらけの動物の体の仕組みを一緒に解明していきましょう。

先生への質問

  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。