The発酵ー微生物のチカラ

The発酵ー微生物のチカラ

先人の知恵で家畜化された「酵母」

「酵母」はパンや日本酒、ワインなどの発酵に欠かせない身近な微生物です。これら産業用の酵母は、どれも「サッカロマイセス・セレビシエ」という同じ種類の酵母ですが、例えばビール酵母なら麦芽を分解する遺伝子を持っているというように、それぞれに特徴的な機能を進化させています。これは、微生物の存在すら知らなかった昔の人が、用途ごとに適切な酵母をうまくより分けて「家畜化」してきた結果です。

野生酵母と産業用酵母のゲノムと発酵能力を比較

一方、自然界にも野生のサッカロマイセス・セレビシエは存在し、その生息場所は土の中から樹液、花、昆虫の体内など多様です。実際に野生の酵母を使って酒を造ってみると、うまく発酵しなかったり、既存の酒とは違った風味を醸したりと個性もさまざまです。
こうした野生の酵母を産業に利用できないでしょうか。産業用酵母がどのような進化を経て、日本酒やビールづくりに適した機能を獲得したのかがわかれば、野生酵母を意図的、かつ人工的に進化させて産業用酵母の特徴を付与し、野生酵母の持ち味を生かしながら産業利用ができると考えられます。岐阜県内で取れた野生酵母を使った日本酒が開発された例があります。

エコな微生物による「発酵生産」

微生物を使って、バイオ燃料や医薬品などを生産する「発酵生産」も行われています。化石燃料に頼らないものづくりとして期待されますが、原料となる糖が人の食料と競合してしまうという問題があります。これに対し、メタノールを分解するメタノール酵母を利用できれば食糧問題は生じません。さらに、大気中の二酸化炭素から作る「環境循環型メタノール」を使えば、温暖化対策にもなるシステムを構築できます。
もっとも、現段階ではメタノール濃度が高いと酵母が死んでしまうという課題があります。これは、メタノールを代謝してできるアルデヒドが細胞内に蓄積してしまうためです。そこで、酵母がアルデヒドを処理する仕組みを明らかにし、処理能力を高める研究が進められています。

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先生情報 / 大学情報

岐阜大学 応用生物科学部 食農生命科学科 教授 中川 智行 先生

岐阜大学 応用生物科学部 食農生命科学科 教授 中川 智行 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

応用微生物学、分子生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私たちの先人たちは、微生物の存在を知らないまま、微生物を「家畜化」してさまざまな発酵食品を醸してきました。家畜化した微生物の一つ「酵母」の進化を今の科学で解析してみると、面白いことがわかります。例えば、お酒を造る清酒酵母は、自然界で生きるためのストレス耐性遺伝子が壊れることにより、高いアルコール発酵力を手に入れました。つまり清酒酵母は自らの身を削って「お酒造り」のためだけに進化したと言えます。このように酵母の研究は面白く、生物進化だけでなく、産業応用にもつながりますので、ぜひ挑戦してください。

先生への質問

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