家畜の排せつ物から作られる炭の可能性

家畜の排せつ物から作られる炭の可能性

実は国内にある「大量の肥料源」

日本の農業は、窒素などの肥料の多くを海外からの輸入に頼っています。そのため、「国内では肥料が足りていない」と思われがちです。しかし、実は日本には国内で求められる窒素肥料の量に相当する「肥料のもと」があります。それは、牛、豚、鶏などの家畜から出る排せつ物です。現状、家畜排せつ物の多くは「たい肥」や「液肥」として農地で活用されています。ただし、うまく利用するにはいくつかの課題があります。

排せつ物を効率的に使うカギ

家畜排せつ物の利用における課題の一つは、扱いにくさです。排せつ物は水分を多く含み、肥料成分の濃度が低いため、大量にまく必要があります。その結果、運搬や散布に手間やコストがかかります。さらに、畜産が盛んな地域の周辺では散布が過剰になりやすく、地下水汚染などを招く恐れもあります。また畜産分野では、抗生物質の使用に関連して「薬が効きにくい菌(薬剤耐性菌)」が問題になることがあります。こうした菌が排せつ物を通じて環境中に広がらないよう、適切に処理する技術が求められています。
こうした課題を解決する方法の一つとして注目されているのが、排せつ物を蒸し焼きにして炭にした「バイオ炭」です。肥料や土壌改良材として利用できるうえ、水分を飛ばして体積を小さくできるため、遠くまで運べるようになります。さらに炭化の過程で高温をかけるため、薬剤耐性菌などの環境リスクも低減できるのです。

輸入に頼らず、環境に優しい農業を

家畜排せつ物由来のバイオ炭を現実的に広めるには、まだ課題があります。たとえば水分を除去するためのエネルギーをどう減らすかです。さらに、畜種によって肥料成分の量が違うため、品質をそろえて「安心して使える資材」にする工夫も必要です。
これらの課題が解決すれば、家畜排せつ物由来のバイオ炭は肥料の輸入依存と環境問題を同時に解決できる可能性を秘めています。バイオ炭研究は、資源循環型農業の実現に向けた重要な一歩といえるでしょう。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

北海道大学 農学研究院  助教 伊藤 貴則 先生

北海道大学 農学研究院 助教 伊藤 貴則 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

農業循環工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

好奇心や探究心があれば研究はできます。興味を持ったことを自分なりに考えて、疑問をそのままにしないことは、研究者に求められる姿勢の一つです。「知りたい」「解決したい」という思いさえあれば、研究をするうえで必要な力は自ずと身についていきます。それでも国語と数学は何をするにも基礎になるので、しっかり勉強しておきましょう。また、勉強は1人でもできますが、仕事は人と関わらないとできません。今のうちから周囲の人とコミュニケーションを取り、多様な考え方や感性に触れてほしいです。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?
  • 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。