光と金属ナノワイヤで細胞の中を操作 医学や薬学の未来を開く

光と金属ナノワイヤで細胞の中を操作 医学や薬学の未来を開く

金属ナノ材料に光を当てて細胞を操作

今、生物学の分野では、「光」を使って細胞機能を観察したり操作したりという研究が盛んに行われています。例えば、蛍光顕微鏡を使うと細胞内部の様子を分子レベルで観察できます。こうした光技術の一つとして、金属ナノワイヤを細胞に刺し、そこに光を当てることで起こる「プラズモン現象」を使って細胞内分子の観察や機能操作を行う技術に注目が集まっています。この技術は将来、例えばiPS細胞から目的の細胞を精密に分化させる制御技術に結びつく可能性があります。

細胞中で抗がん剤はどう働くのか

プラズモン現象とは、金属ナノ粒子に光を当てると、金属表面の自由電子が光と相互作用して集団で振動し、ナノ粒子近傍に強い電磁場が形成される現象です。この電磁場の中に特定の分子が存在すると、振動状態や共鳴条件が変化するため、分子を高感度に検知できます。
例えば銀のナノワイヤ上で起こるプラズモン現象を使うことで、細胞内部のDNAと結びついて細胞の増殖を止める抗がん剤が細胞核内でどのように動いているのか、高感度で検出することができました。これによって、薬の効果を高める分子設計などに結びつけることができます。

酵素に強く、光で切れやすい分子

また、金属ナノワイヤに特定の分子をつけて細胞内に差し込み、光を当ててその分子の結合を切断することで、タンパク質などを細胞内の望む場所に放出する技術も研究されています。その過程では、有機化学合成の研究者と共同で、従来は両立できなかった、「細胞内で壊れにくい性質」と「光で切れやすい性質」を兼ね備えた新しい分子の開発にも成功しました。この分子は、さまざまな細胞の研究を加速すると期待されます。
細胞内へ特定の物質を放出する技術は、さまざまな材料との組合せが研究されています。例えば、2025年にノーベル賞を受賞した金属有機構造体(MOF)のうち、光を当てるとある種のガスを放出するMOFを金属ナノワイヤに被覆することで、細胞内にガスを送り込む技術も研究されています。

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京都大学 物質-細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS)  特定拠点准教授 猪瀬 朋子 先生

京都大学 物質-細胞統合システム拠点(WPI-iCeMS) 特定拠点准教授 猪瀬 朋子 先生

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メッセージ

私は「化学が好き」という漠然とした理由で、大学は理学部を選びました。その後、学んだ化学の知識を生物学に生かすことにして、今は充実した研究生活を送っています。ただ、いろいろな研究者と関わると、「高校生のときにこういう研究があることを知っていたら、別の進路を選んでいたかもしれない」と思うこともあります。大学に入ると、ある分野の専門性を深めていくことになるので、それまでにさまざまな学問分野、研究領域の情報に接したり、ちょっと興味が湧いたことを調べてみたりして、視野を広く持っておきましょう

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