乳牛の天敵、乳房炎を防げ! 診断技術で酪農現場を変える

甚大な経済損失を与える病気
「乳房炎(にゅうぼうえん)」は乳牛に最も多い病気です。乳房に細菌やカビなどの微生物が侵入して起こります。ウシの乳頭は、乳汁を大量に出せるように穴が大きくなっているため、微生物が侵入しやすいのです。栄養価の高い乳汁がたっぷりある乳房は、微生物にとって魅力的な環境だという理由もあります。
乳牛の約1~3割が乳房炎にかかっており、治療中は生乳を出荷できないため、経済的損失は年間800~1000億円に上ります。
微生物を迅速診断
ウシの乳房炎の原因となる微生物は、200種類以上おり、原因を突き止めるには、微生物を採取して培養する必要があります。診断には1日以上かかってしまうため、生産現場では経験や勘に基づいて、乳房炎のウシにひとまず薬剤を与えます。しかし、この従来の治療は過剰な薬剤投与にもつながるため、迅速に病原微生物を判定できる技術が求められていました。
そこで開発されたのが、乳汁を用いた迅速診断技術です。細胞壁の構造によって細菌を染め分ける「グラム染色」を行い、乳汁中の微生物を顕微鏡で確認する手法によって、30分で大まかに菌種を推定できるようになりました。最初からその菌に適した薬剤を投与できるわけです。さらに、スマートフォンで撮影した顕微画像をAIが判定して菌種を推定する、菌の自動検出システムも開発中です。数年後には、誰もが現場ですぐに菌種を判定し、適切な治療を始められるようになるでしょう。
感染予防方法も研究
早期の診断・治療だけでなく、乳房炎の感染予防も進められています。乳房炎は感染経路別に、搾乳器具や搾乳者の手指を介する「伝染性乳房炎」と、牛舎のふん尿や寝床から菌が侵入する「環境性乳房炎」に分かれます。搾乳器具の洗浄方法などの見直しや寝床の交換タイミングで、乳房炎をどれだけ抑制できるかを検証する研究が進行中です。乳房炎はウシの体にも負担をかけます。食の安全性と生産性確保のためにも、動物福祉の観点からも、乳房炎の発生を抑えることは重要な課題です。
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