化学物質に汚染されたイルカたち iPS細胞から影響を調べる

なぜイルカに化学物質が?
愛らしく賢い印象のイルカですが、実は彼らの体には大量の化学物質が蓄積しています。理由の1つは、イルカが海の食物連鎖の頂点に位置する生き物の1種だからです。食物連鎖を通じ、食べる側の生き物に化学物質がどんどん蓄積していくことから、頂点にいる生き物の体は化学物質の濃度が高くなるのです。イルカは水中で体温を保てるように体の表面が分厚い脂肪で覆われており、その脂肪部分に化学物質が溜まっていることもわかっています。
細胞培養で影響を調査
化学物質はイルカの脂肪に溜まるだけでなく、脳にも達して影響を及ぼす可能性があります。しかし、その影響はあまり調べられていません。イルカではマウスのように動物実験ができないためです。そこで、海岸に打ち上がったイルカや、漁業活動の中で偶然捕獲されたイルカから採取した組織を使って細胞を培養し、化学物質の影響を調べる研究が進められています。
これまでに20種を超える鯨類から細胞を培養・保存し、種によって化学物質への反応が異なることもわかってきました。一方で、脳への影響を詳しく調べるためには、神経細胞を使った研究が必要という課題がありました。
iPS細胞でイルカの神経を作る
この課題の打開策として期待されるのがiPS細胞です。ダイレクトリプログラミングという手法により、イルカの線維芽細胞から神経細胞を直接作ることに成功しました。その後、イルカのiPS細胞の作製に取り組みが進み、現在はiPS細胞から神経細胞が作られ、研究に活用されています。
iPS細胞は増殖を続けることができるため、限られたイルカ由来細胞を有効に活用しながら、長期間にわたる研究が可能になります。将来的には、さまざまな鯨類から作製した神経細胞を用いて、化学物質が脳に与える影響や種差を詳しく調べ、生体への影響や毒性をより正確に評価できるようになると期待されています。
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麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科 講師 落合 真理 先生
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