絵画に「時間」を描く 絵はなぜ動き始めたのか

絵画に「時間」を描く 絵はなぜ動き始めたのか

写真や映画が生まれて

かつて絵画は、人物や風景をできるだけ正確に描くことが重要だと考えられていました。しかし19世紀に写真が発明され、その後に映画も登場すると、現実を忠実に記録する役割はこれらの新しいメディアが担うようになりました。
そこで芸術家たちは、「絵画にしかできない表現とは何か」を改めて考えました。その中には、完成した絵だけでなく、描く行為や制作の過程、そこに流れる時間そのものを表現しようとする試みも含まれています。絵画は単に目の前の風景を再現するものではなく、人が世界をどのように感じ、経験したのかを表現するものへと変化していきました。

描く時間そのものを作品に

こうした流れの中で生まれた表現の一つが、絵を描く過程を映像として記録する「ドローイング・アニメーション」です。一枚の絵を少しずつ描きながら撮影し、それらを連続して映し出すことで、絵が変化していく時間そのものを作品にします。完成した絵だけではなく、「どのように描かれたのか」という過程も表現の一部にしているのです。
一方で、映像になると絵の具の厚みや筆の跡、質感といった絵画ならではの物質的な特徴は失われます。そこに残るのは、変化し続ける光と時間の流れです。絵画と映像は互いに異なる特徴を持ちながら、それぞれ別の方法で時間を表現しているのです。

芸術に「場所」を持ち込む

現代美術では、作品が展示される場所そのものを表現の一部として考える「インスタレーション」という手法も発展しています。例えば、大きな空間で公開制作を行う場合、作品はその場所の光や天候、周囲の環境の影響を受けながら変化していきます。同じ内容を別の場所で制作しても、同じ作品にはなりません。つまり、作品は時間だけでなく、その場所で生まれた経験も含んでいるのです。このように芸術に「時間」と「場所」という要素を取り入れることで、完成した作品だけでは表現しきれない体験や記憶を伝えようとする試みが行われています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

多摩美術大学 美術学部 絵画学科 油画専攻 教授 石田 尚志 先生

多摩美術大学 美術学部 絵画学科 油画専攻 教授 石田 尚志 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

芸術、絵画、映像、表現

メッセージ

絵を学ぶ上で大切なのは、上手に描くことだけではありません。自分の心が動いたものをよく見て描くことです。夏の入道雲や夕焼けの色など、日常の美しい風景を描くだけでも、新しい発見があります。対象を描くことは、単に形を写すことではなく、世界と向き合うことでもあります。また、発想力を育てるためには、本を読んだり、映画を見たり、美術館で本物の作品に触れたりすることも大切です。さまざまなものに興味を持ち、社会や世界とのつながりを感じながら、自分なりの視点を育ててください。

多摩美術大学に関心を持ったあなたは

1935年の創立以来「自由と意力」を理念とし、社会に数多くの優れた芸術家やデザイナーや教員を輩出し続ける、日本を代表する美術大学のひとつです。大学院と美術学部のある八王子キャンパスでは約4,000人の学生が学び、作品制作する上で理想的な施設・設備を整えています。