iPS細胞から造血幹細胞を作る ヒントは魚の発生学

再現が難しい造血幹細胞
再生医療の現場では、iPS細胞から作られた心筋細胞や網膜細胞の実用化が進んでいるものの、白血病などの治療に使われる「造血幹細胞」の作製はまだ実現できていません。赤血球や白血球などさまざまな血液細胞に分化できる造血幹細胞の能力は複雑で、体外で再現することが難しいのです。
造血幹細胞をiPS細胞から作る過程は、実は造血幹細胞の発生の過程とよく似ています。そこで、モデル生物を用いて造血幹細胞の発生の仕組みを明らかにし、iPS細胞の技術に応用しようという研究が進められています。
成熟に必要な分子シグナル
モデル生物とは、ゼブラフィッシュという魚です。卵や胚が透明なので発生過程が観察しやすく、成長も速いほか、遺伝子組換え技術が確立されているというメリットがあります。例えば、遺伝子組換え技術によって目的の細胞を光らせることで、造血幹細胞が生まれる瞬間を観察することも可能です。
iPS細胞から造血幹細胞を作る技術では、未成熟な造血幹細胞が成熟して自己複製能を獲得するまでの過程がうまく進んでいません。そこでゼブラフィッシュの造血幹細胞について成熟の前後で違いを調べ、成熟に必要な分子シグナルを探ります。すでにいくつか候補が挙がっており、実際にiPS細胞で機能するのか解明が進められています。ゼブラフィッシュと人は遺伝子の約70%が共通しており、特に造血幹細胞の成熟で共通するシグナルが見つかれば、それは進化で保存された本質的な仕組みであると考えられます。
造血幹細胞を体外で増殖させる
もちろん魚と人では違いもあります。人の造血幹細胞が造血する場は骨髄ですが、魚には骨髄がなく腎臓で造血します。実はこうした違いも、造血幹細胞の仕組みの解明に役立ちます。造血幹細胞は「造血幹細胞ニッチ」という環境の中にあって増殖しますが、ニッチの機能は謎が多く、体外で増殖させるのが困難です。人の骨髄と魚の腎臓の環境の共通点がわかれば、ニッチの機能解明につながると期待されます。
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