タンパク質の老化は止められるのか? ある酵素の発見

タンパク質が老化する?
人間は老化によって、脳の認知機能が衰えるアルツハイマー病など、さまざまな病気を発症することが知られています。細胞にとって老化するとはどういうことなのでしょうか。そこでタンパク質を形成するアミノ酸を調べてみると、時間の経過とともに一部の分子構造が本来のL体(左手型)からD体(右手型)へと変化(異性化)することがわかりました。それはつまり老化現象の1つといえます。そして、アルツハイマー病患者の脳には、D体に変化したアミノ酸(D-アミノ酸)を含むタンパク質が蓄積していることもわかっています。このD体への変化を食い止められれば、アルツハイマー病を予防する可能性があると考えられます。
D-アミノ酸を含むタンパク質を分解する酵素
酵素などのタンパク質は、分子の構造によって性質も機能もいろいろ変化します。酵素の中には他のタンパク質を分解するものがあり、実はある微生物が持つ1種類の酵素がD-アミノ酸を含むタンパク質を分解することがわかっていました。人間にも同じような酵素があるのではないかと、微生物が持つ酵素の立体構造をAIで予測し、その構造とよく似た構造を持つヒトの酵素をデータベースで探してみると、LACTBという酵素が見つかりました。その後、実験によってLACTBがD-アミノ酸の1つであるD-アスパラギン酸を含むペプチド分子を切断することが確認されました。
医学や薬学に貢献する生化学
LACTBは、アルツハイマー病だけではなく、がんや代謝疾患にも関連します。しかし、LACTBがD-アミノ酸を含むタンパク質を切ると何が起こるのかや、LACTBが働かなくなる仕組みなど、わからないことがたくさんあります。たとえLACTB自体の働きがわかったとしても、人間の体内、細胞の中ではどのような働きをするかを確認するために、さらに実験や研究が必要です。
このように道のりは長いですが、生体分子の性質を詳しく研究する生化学は、医学や薬学の発展に貢献する多くの可能性を秘めているのです。
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