脳を見る:「分子イメージング」について

様々な脳のイメージング方法
私たちの脳には1000億以上の神経細胞が存在し、電気信号や神経伝達物質を介して情報をやりとりしています。学習や記憶は、これらのネットワークが強化されることで成立します。こうした複雑な脳のはたらきや病気を調べるには画像診断が欠かせません。脳血管の異常にはX線やCT、構造の異常にはMRIが使われますが、さらに神経伝達や代謝の状態まで観察できるのが「分子イメージング」です。これは脳機能の可視化に非常に役立つ新しい技術です。
分子イメージングで脳機能を明らかに
脳は体の司令塔であり、思考や記憶、感情などの精神機能をつかさどっています。そのため非常に多くのエネルギーを消費しますが、そのエネルギー源はブドウ糖です。ブドウ糖に目印をつけて追跡することで、脳のどこが活動していて、どこが活動していないかを診断することができます。
ドーパミンは脳の神経伝達に重要な役割を果たす物質で、運動や意欲などに関係しています。パーキンソン病は、脳の「黒質」にあるドーパミンを出す神経細胞が徐々に壊れることで起こり、手のふるえや動作の鈍さなどの症状が現れます。PET(陽電子放射断層撮影法)を使えば、ドーパミンの合成や取り込みの様子を専用のプローブで可視化できるため、発症前の早期診断や進行の評価に役立ちます。分子イメージングは、神経の病気の診断だけでなく、新しい治療法の開発にも欠かせない技術です。
PETイメージングの将来
分子イメージングの画期的なところは、体への負担が軽いという点です。これまでは体内から患部の細胞を摘出しなければわからなかった情報が、体を傷つけることなく得られます。また分子の流れや働きを分析することで、今まで原因がわからなかった疾患のメカニズムを解明することにもつながります。脳以外では、がんの早期発見や治療経過観察などにも役立っています。
分子イメージングの研究がさらに進めば、将来的には簡易で費用がなるべくかからない検査で病気の予防や早期発見ができるようになるでしょう。
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先生情報 / 大学情報

神戸学院大学 薬学部 教授 尾上 浩隆 先生
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