認知症改善薬への希望 一夜漬けですぐ忘れるメカニズムの研究

脳の「記憶」を強化する
日本は超高齢社会を迎え、加齢によって記憶の力が損なわれる認知症が社会問題になっています。薬も開発されていますが、記憶力そのものを改善する薬はまだありません。
「今日はもう薬を飲んだかな」「今、冷蔵庫に何が入っていたかな」といった、生活に必要なルーチンで使う記憶を「エブリデイ記憶」と言います。マウスでこの記憶の実験系が考案され、それをもとに、記憶を高める物質・仕組みを特定し、認知症の改善薬の開発が行われています。
「一夜漬け」では記憶は残らない
試験前に一夜漬けで勉強した知識よりも、間隔をあけてコツコツ勉強したことの方が長く保存されます。その仕組みを調べるため、マウスに「一夜漬け」と「コツコツ」の学習をさせ、マウスの脳で読みだされた遺伝子が調べられました。コツコツ記憶は、一夜漬けとは異なり、特定の遺伝子が読みだされ、神経細胞が栄養とするタンパク質などを作り出し、記憶を長期化することがわかりました。さらには、脳の各場所ごとに、違うセットの遺伝子が読みだされていたのです。
今後は、この結果をもとに、できるだけ副作用なく、日々の認知力を改善する薬の開発が行われていきます。
傷の残らない頭部損傷でも記憶障害は起きる
記憶の損傷は、ラグビーやボクシングといった激しいスポーツや、交通事故による脳への物理的なダメージでも起こります。また、日本ではほぼ例がありませんが、海外ではテロ事件や戦争で爆風を浴びた人の記憶障害が社会問題となっています。CTなどの画像診断ではわからず、診断が難しいのが現状です。
爆風を浴びたマウスの脳の研究からは、記憶をつかさどる「海馬」の神経細胞の損傷がみえてきました。長い「軸索」という部分には、「髄鞘(ずいしょう)」という電線を保護するカバーのような物質があります。その髄鞘が爆風により損傷していたのです。また、爆風を浴びたマウスは、行動の仕方にも違いがありました。これを人間に当てはめることで、脳の外傷による記憶障害の診断と回復に役立つと考えられます。
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熊本大学 理学部 教授 野中 美応 先生
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分子遺伝学、神経科学、行動心理学先生が目指すSDGs
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