脳死はなぜ人の死とされるのか? 臓器移植の進歩が生む議論

「脳死」とはどんな状態?
「脳死」とは、医学的には生命維持をつかさどる脳幹を含む脳全体が不可逆的(元に戻らない)に機能を停止した状態を指します。しかし、人工呼吸器などの医療措置によって心臓は動いており、体温や代謝は維持され、身体は成長し、髪やヒゲ・爪が伸びるなど、生命活動は行われています。それを「人の死」と言えるのかどうかは、とても難しい問題です。
「脳死」をめぐる問題については、生と死の医学的な境界がどこなのか、倫理的・心理的な面から人の死をどのように考えるのかなど、多様な見方から考えなければなりません。
臓器移植を前提に
そもそも「脳死」という概念は、臓器移植の進歩と深いつながりがあります。かつては呼吸が止まれば心臓も止まり、死は明確なものでした。しかし、人工呼吸器の発明により、脳機能が損なわれても生命活動を維持できるようになりました。また、臓器移植技術の発展によって、移植のための臓器がたくさん必要になりました。この臓器不足を解消するために、「脳死」を人の死とすることが提案されたのです。
特に1980年代にアメリカの大統領委員会が「脳死」を人の死と認める論理を公表したことが、大きな転機となりました。この論理の根拠として挙げられたのが、「有機的統合性(インテグレーション)」という概念です。大統領委員会は、「脳は全身の機能を統御する機関である。脳が機能を停止すれば、個々の臓器が動いていても個体としての有機的統合性は失われる。そのため、その人は死んでいる」と説明します。この考え方については、医学的・倫理的視点から批判もありました。
人の死とは?
脳死という概念は、臓器移植という目的のために、死の定義を政策的・論理的に組み替えたという歴史的側面を持っています。また、医療的ケアを必要とする患者を長期的に支えることで生じる、医療経済や家族負担などの問題もあります。臓器移植を求める多くの声があることも含めて、「人の死」について考えていく必要があります。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報

富山県立大学 看護学部 看護学科 基礎看護学 准教授 小宮山 陽子 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
生命倫理学、看護教育先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
![選択:[SDGsアイコン目標3]](https://telemail.jp/shingaku/requestren/img/data/SDGs-3-active.png )
![選択:[SDGsアイコン目標4]](https://telemail.jp/shingaku/requestren/img/data/SDGs-4-active.png )
![選択:[SDGsアイコン目標16]](https://telemail.jp/shingaku/requestren/img/data/SDGs-16-active.png )