小説を通してフランスの自然や芸術に触れる 時空を超える文学読解

20世紀を代表するプルーストの作品
フランスの作家マルセル・プルーストの代表作『失われた時を求めて』を知っていますか。20世紀を代表する長編小説で、主人公の少年が成長しながら芸術や人生に目覚めていく物語です。この作品を研究することは、物語の意味を読み解く作業にとどまりません。作中に描かれる絵画、食、植物、建築、宗教など、フランスという国の文化そのものを知る入り口になります。例えば、作中の風景描写の源泉をたどっていくと、中世のゴシック大聖堂や印象派の絵画、さらには当時の歴史的背景にまで行き着きます。文学を入り口に、時空を超えてヨーロッパの文化・芸術に触れることができるのです。
草稿に刻まれた執筆の過程をたどる
文学の研究の一つに「生成研究」があります。作家が書き加えたり削ったりした草稿の執筆の過程をたどり、作品が形になっていく過程を解き明かすのです。プルーストは加筆を重ねる作家として知られ、初期の草稿に実在の芸術家の名前が書かれていた箇所が、最終稿では架空の人物の名前に置き換えられている例も見つかっています。書店に並ぶ本が必ずしも「決定版」とは限らず、作家が生きていれば、さらに書き換わっていたこともあるかもしれません。テキストは有機体のように常に変貌しうるものであり、そうした発見は生成研究ならではと言えます。
描写のモデルを解明
作品に登場する教会や絵画の描写には、実は複数のモデルが織り込まれています。草稿や書簡、当時の美術評論、雑誌記事などを突き合わせていくと、イギリスの思想家ジョン・ラスキンや、フランスの美術史家エミール・マールがプルーストに影響を与えていることが見えてきます。
ただし、作品中の描写が特定の絵画や評論の一節に似ていることを指摘するだけでは、研究として成立しません。そこでは、プルーストがその資料を実際に手にしていたかを、書簡や同時代の証言などから裏付けていく作業が必要になります。そうした地道な検証作業こそが、文学研究の土台になっていくのです。
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先生情報 / 大学情報

名古屋大学 文学部 人文学科 文献思想学繋フランス語フランス文学分野専攻 教授 加藤 靖恵 先生
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