磁石の中に液体? 宇宙へつながる「新しい物理学」

磁石の「板挟み」
磁石の内部には、「スピン」と呼ばれる小さな磁気の単位が多数存在します。スピンには向きがあり、隣同士で逆向きになろうとする性質があります。コインの裏表に例えると、四角形に並んでいれば交互に裏表を変えるだけで済みますが、三角形に並ぶと二つが逆向きになった時点で、残りの一つはどちらかの相手と同じ向きになってしまいます。すべてのコインが同時に満足できないこの状態を「フラストレーション」と呼びます。この状態になったスピンは、一つの向きに決まることができず、絶対零度近くまで冷やしても揺らぎ続けます。この状態が「スピン液体」です。
一つの物質の中の二つの液体
スピン液体の中でスピンがどのように動いているかをシミュレーションで計算し、動画として可視化する研究が行われています。ある物質について、スピンの動きを速さごとに色分けして詳しく分析したところ、三つのスピンがゆっくり協調して動く揺らぎと、一つのスピンが単独で素早く反転する揺らぎが同時に存在している可能性が示されました。一つの物質の中に、動きの異なる二種類のスピン液体が共存しているということです。
物質の中から宇宙が見える
スピンがN極・S極のある矢印ではなく、上下の区別がない棒のように振る舞うことがあります。この状態では、液晶ディスプレイの液晶のように、スピンの軸だけがそろいます。この状態の中に生じた「欠陥(ねじれ)」は安定しており、温度の変動などの外乱があっても消えません。またこの欠陥が合体・消滅するとき、周囲に波が広がります。この波を記述する数式が、宇宙でブラックホール同士が合体するときに放たれる重力波の数式と同じ形をしていることが、シミュレーションによって示されました。物質の内部を調べることで、広大な宇宙の物理を理解する手がかりが得られる可能性があるのです。
スピン液体の研究は、私たちがまだ知らない物理の姿を次々と浮かび上がらせており、同時に、将来の量子コンピュータなどへの応用も期待されています。
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