イノベーションを加速する知的財産制度をつくるために

知的財産とは
技術やデザインなどの人間の創造的な成果、形のない財産を「知的財産」といい、無断で使われることのないように「知的財産法」によって保護されています。知的財産には、デザインを保護する「意匠権」、ブランドを守る「商標権」、迅速に権利を取得できる「実用新案権」、企業の技術を保護する「特許権」の4つの主要な分野があります。日本では毎年約30万件の特許の出願があります。過去10年から20年の出願データを分析することで、企業がどれだけ特許を所有しているのか、技術力や利益にどのように影響しているのかがわかります。また、その特許がほかの特許にどれくらい引用されているかを追跡することで、その社会的影響も評価できます。
経済学者の腕の見せ所
特許に関するデータは、日本国内で約千万件、世界で一億件を超えており、これらのデータを用いることでさまざまな分析が可能です。経済学には理論や予測がどの程度妥当なのかを、実際のデータを用いて分析する「実証分析」という手法があり、ここでは「相関」と「因果」の違いを区別することが重要です。例えばAという企業について、特許を多く持っているから利益が上がるのか、利益が上がっているから特許を出せるのか、データや理論を駆使してそれらの正しい関係性を特定します。これはAIでは代替できません。
制度設計に役立てる
こうした分析は、知的財産を守るための制度の研究に役立ちます。既存の制度には、どういう種類の発明やアイデアを保護すべきか、審査期間や特許取得費用はどれくらいが適切なのかといった基準が設けられています。それぞれの制度が意図した効果につながっているのかを考える上でも、特許データは役立つのです。
日本は、直近では少し持ち直していますが、残念ながら先進国で唯一特許出願数が減少を続けてきました。資源を持たない日本が、知識や技術といった長所を生かして国際競争力を上げていく上では、データを用いて知的財産制度を見直し、よりイノベーションを促進することが大切なのです。
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